クリスマスの約束

夜の東京タワーが好きだった。

ライトアップされた東京タワーの、暖かいオレンジ色が好きだった。

あの日、僕は東京タワーの照明が0:00に消えることを初めて知った。

 

 

夕暮れの東京タワーの下で、最初は期待に胸を膨らませながら。

夜が深まるにつれて、次第に気持ちは萎んでいって。

最後の灯りが消えた時、僕はこの先、自分が思っていたような人生を歩んでは行けないことを理解した。

 

どこで間違ったんだろう。

どこから勘違いしていたんだろう。

僕の独りよがりだったのか。

 

どのくらい時間が経ったか分からなかったけれど、途切れ始めた人混みに紛れて駅の方角に向かった。

その後のことはよく覚えていない。

電車はとっくになくなっている時間帯だったから、何とかタクシーを拾って帰ったのか。

それともクリスマスの夜にタクシーなんて捕まるはずもないから、ただひたすら歩いたのか。

暗くなった東京タワーを背にした時からの記憶は欠落していて、最後に泥のようにまとわりつく疲労感とともにベッドに倒れ込んだことしか覚えていない。

 


 

それからもうずっと、東京タワーには行っていない。地元に戻った後、何度か東京に行く機会はあったけど、視界に入れたいとも思わなかった。

数年も経てば、東京タワーという存在は自分の中ではほぼ無いに等しくなっていた。TVとかで画面に映ることがあっても、だから何?て感じ。無関心。どうでもいい。

 

 

あの日、あの時までの自分の全ては、東京タワーの下に捨ててきた。

もう二度と振り返らないと決めたから。

これからの僕の人生には、もう関係のない場所だから。

 


 

あれから長い年月が経った。

ふと、東京タワーに行ってみようかな、と思った。

その日東京にいたというだけで、特に深い理由はない。

ただ何となく。

それ以上でもそれ以下でもない。ただの気まぐれ。

 

 

日比谷線神谷町駅から地上に出て、人混みに沿って歩く。たぶん上を見れば東京タワーを確認しながら行けたかもしれないけど、敢えてイヤホンで音楽を聴きつつ地面を見ながら歩き続けた。

坂を登っていく途中、視線を上げると、道を挟んだ反対側の建物のガラスに懐かしいオレンジが映っていた。

 

 

あぁ、そうか。

東京タワーを見上げて、何となく呟いていた。

 

これで良かったんだ。心からそう思えた。

僕は今の僕の人生を、これ以上ないほど満足して生きている。

 

だからもう、ここに置いていったあの時の想いや、情熱や、悔しさや、失意とかは、もういいんだ。そのままで。

なかったことにはしないし、する必要もない。

それがなかったら、今の自分はいないから。

あの日の答え合わせは、しなくていい。

 

相変わらず、夜の東京タワーは暖かい色で、組み上げられた鉄骨はカッコ良かった。

日本で屈指の好きな建物だから、また見に来よう。

たぶん何十年後かも変わらずにここにあるだろうから。

人生を楽しみながらどんどん変わっていく自分のままで、また来よう。